「光の標(しるべ)」

投稿日:2016年01月17日

cameraworks by Takewaki

 

鶴岡真弓 
多摩美術大学 
芸術人類学研究所所長 / 芸術学科教授

 

歴史ある連合設計社/rengoDMSの創立から今日まで、日本と世界におおきな貢献と影響を与え続けられておられます貴社の活動に、私どもはこれまでたいへんな勇気と創意のパワーを頂いてまいりました。

 

創立から草創期を築かれ、建築・デザイン・人文学・自然科学・倫理学・生命論にいたるまで、
国内外に向け、人間のものづくりの心と技をとおして提言を絶やすことのなく、匠の精神を血肉とされた吉田桂二様が、みなさまにさらなる来るべき「光のバトン」をわたすかのように、
もうひとつの高みへと旅立たれましたこと、
謹んで深くお悼み申し上げます。

 

85年にわたる吉田桂二様のご生涯は、建築/空間が、「命をつつむもの」であり、その「つつまれに」人は日々癒やされ、活動し、発見し、憩い、
また明日へと一歩を踏み出してきた、
その人類史スケールの哲学と実践、
それは太古と現在を架け橋となられてきた設計空間創造集団rengoDMS そのものの、伝統と魂とともにあった、あることを、
あらためて深く実感させていただいております。

 

「教えてもらった数々を「再生」という通路を遡って歩いているような気がします。
その言葉が全く同じ器である肉体が甦るということでなく、たとえ時間や、宿る器が同じでなくとも痕跡や記憶を通し、変化し再生して行くことを言っているのではないだろうか」

 

「逝ってしまった者達の、こちら側に残した数々が、失うことの喪失感以上に、生き返ることの充足感を与えてくれます。そのような意味において吉田桂二も私たち連合設計社一同にとって「旨し者」でありました。」

 

菩提寺光世さんのお便りに滲み出たこれらの言葉から、多くの人々が共感されてゆくと思います。そして引用いただきました「旨し者」は、rengoDMSホールで開催して頂いた、多摩美大・芸術人類学研究所シンポジウムのスピーチから生まれた言葉でしたことを、ここにあらためて深謝いたします。

 

ひとの歴史に起こる、たいせつな人間を亡くすこと、それは私自身にも近年経験されたことでした。
「過ぎ去った者」に寄り添うこと、それらと共に生きることは、おおきな悲しみであるにちがいない。しかし、生かさせていただいている私たちが、寂謬を「光へと変容させる」心身と真の術を授けられていく、そのオンリーワンチャンスを、
死者たちは身をもって遺していってくれたのだと信じます。

 

新しき年、春陽を浴びながら、
闇から光への「標(しるべ)」を、
rengoDMSのみなさま、関係各位からいっそう放たれ、
真の創造と歓びの世界へと導いてくださりますことを、心よりお祈りし確信いたしております。

 

2016年1月 雪融ける日に

 

cameraworks by Takewaki

 

「痕跡と再現–吉田桂二追悼」

(株)連合設計社市谷建築事務所/rengoDMS 
一同

 

                        

良い住まいの提案を、未経験のものを実験するという方法でなく、

私たち自身が経験し、

或いは私たちの祖先が歴史に遺したものを再現するという方法で試みることも重要である。

『〈和風〉の行方』 戎居研造

                                                                                                                                                                           

昨年の暮れも迫った頃、吉田桂二は逝きました。

 

「礼」を最も重んじていた吉田桂二でした。
その彼の強い遺志により、社葬を執り行わぬこととなり、親族だけが集った小さな葬儀へ参列が許されたのは、戎居連太ひとりでした。
「命の恩人とも言える戎居連太はある意味唯一無二の弟子であり、実の息子と変わることはない」と周囲やご家族に遺されていたと私たちが知った時、込み上げる思いと同時に吉田桂二と関わり深い方々に対し、どのような言葉を以ちご納得頂けるかと案ずる気持ちがよぎりました。
建築儀礼や行事が重じられる環境にあって、吉田桂二最期の見送りがかなわぬことは、彼が心から大切にしていた方々への「礼」に反することになりはしないだろうか、と。

 

その思いが払拭できぬまま迎えた本年に、頂戴したのが鶴岡真弓先生からのお便りでした。
文面から現れる吉田桂二の鮮やかな姿に驚きを持ち、最後に彼が私たちに教えてくれる「礼」の在り方を思わずにいられません。遺産に匹敵するような日本建築や町並みの保存再生に深く携わった吉田が、謎かけのように言った「いつの時代を再現するのか。どれをオリジンとするのか」の問いかけに、痕跡や形跡が複数による時間を横断する複合的な散種によるものではないかとあらためて知らされるお便りでした。建築、美術、文学、哲学といった普く名称の枠を越えて実践する日常の生活のなかに、「礼」の精神があるのではなかろうか。依頼者に応え設計を努める私たちの仕事は未だないものを思い描くことであるけれど、今/現在を応える循環のなかに既にある作品とも言えるでしょう。
そこに現前と再現前の区別はあろうはずもなくそれぞれが、確かに吉田桂二の痕跡として、今も生きている証として受け止めるものであります。
さらにそれは、吉田のみならず先人の棟梁や職方、特定されえぬあまたの人びと、壺井栄や中野重治の集いを遺すものでもありました。

 

私たちは見送ったすべてのものたちに支えられ、受け継ぎ、今に集い、そして未来に渡せるようこれからを邁進する所存です。それが創立者たちから与えられた連合設計社という名のもとに仕事を進める私たちの在り方と考えるからです。

 

みなさまのご厚情に深謝しますとともに、今後ともご厚誼賜りますよう連合設計社市谷建築事務所/rengoDMS所員一同、心よりお願い申し上げます。

 

cameraworks by Takewaki

 

 cameraworks『吉田桂二 2016年2月(公開)』

 

2016.1.17 投稿|