信國太志×仲正昌樹×米原康正×菩提寺伸人 トークイベント第一弾 抜粋

投稿日:2018年06月20日

photo by n bodaiji

一部変更、訂正を加え増刷二版目の書店販売を開始いたしました。現在二版目は阿佐ヶ谷ネオ書房で現物在庫があることが確認されています。(2021/7/7更新)

※少量生産本でもあり現在流通が不安定な状況で、大変ご迷惑をおかけし申し訳ありません。

5月中旬発売、早々ご好評頂き、もう既に出版元の在庫も数える程となりました。ありがとうございます。今現在、重版の予定は決まっていませんので、ご興味のある方は下記書店などでお早めにご購入ください。(2021/5/22更新)

現在新宿のブックユニオン、くまざわ書店武蔵小金井北口店、紀伊国屋書店新宿本店、新宿の模索舎、ジュンク堂書店池袋本店、ブックファースト新宿店、神保町の小宮山書店に現物在庫があることが確認されています。 (2021/5/21 更新)

書籍『東京80年代から考えるサブカル』(図書新聞社)が刊行されます。

5月13日〜14日に神保町の小宮山書店、新宿の紀伊國屋書店ブックファーストブックユニオン(ディスクユニオン)等で販売されます。

photo by yoko

《近々書籍化》

―― 今回のトークセッションは前回メンバーに加え、新たにテーラーの信國太志さんにご参加いただきます。簡単に信國さんのご紹介をいたします。信國さんは孫正義さんや堀江貴文さんも通った福岡の大変有名な進学校を中退されてロサンゼルスなどに遊学。その後、ファッション業界に多くの才能を輩出するロンドンの名門カレッジ、セントラル・セント・マーチンズに入られます。その後マルコム・マクラーレンやヴィヴィアン・ウエストウッドなどと交流、卒業制作ショーはメディアに取り上げられ話題を集めるなど、新鋭デザイナーとして注目されました。日本に帰国後はご自身のブランドを立ち上げ、その後〈タケオキクチ〉でクリエイティブ・ディレクターとして活躍。2005年には毎日ファッション大賞新人賞を受賞されています。ですが、ここから先が不思議な経歴です。周囲はそのままデザイナーとして活躍するものと思っていましたが、一転、ビスポークテーラーになられます。私が知り合ったのは、rengoDMSで企画したビスポークシュー・メーカーのステファノ・ベーメル展がきっかけです。追々、その経緯を語っていただこうと思います。

cameraworks by koshimizu susumu

前回のトークイベントの内容をざっくりとまとめておきます。主には80年代カルチャーの現場がどうであったか、という話でした。強引に結論は出していませんが、80年代という時代は、主体が揺ぎ始めた、いわばモラトリアムの時代ではなかったか、という論点が出されました。受験戦争の弊害として現われた事件の話なども出ました。それまでは、「主体的であれ」「自分の意見を自分の声で発すべし」と言われてきましたが、あの時代から、善悪も含め均一の枠に収まりきれない歪みが、それぞれの主体に生じたのではないか、という議論です。
仲正先生からは、主従の関係について、ヘーゲルの「主と僕(しもべ)の弁証法」にあるように、僕があって初めて主が成立するので、実は僕の存在が重要ではないか、という指摘も出されました。受動的な存在が必要だということです。関連してSMの話にも及びました。受動的であり続けること、やられ続けることは、主体的な強さを持っていないとそれに耐えきれないものだ、ということです。
また、それまでもコラージュや引用、編集と言ったものはあるけれど、80年代頃になると様々な引用、コピーなどを多用することによって企図した何かや、オリジナルに回帰する何かではなく、混淆することで即興的に、また偶発的に発生した別の何か、サンプリング、リミックス、編集などによって生み出されたシュミレーショニズムに光が当て始められ、それがサンプリング・カルチャーや今の文化に繋がっているという議論もありました。今の時代の契機を80年代が準備したのではないか、というところでトークセッションを終えました。
前回のトークが好評だったため、この第2回目のトークを企画しました。最初に宣言しておきますが、皆さんの関心がかなり多岐に渡るので、おそらくまとまらないと思います。どこに行き着くか未知ですが、とにかくスタートしますので宜しくお願い致します。
では最初に米原さんに問題提起を頂きます。

米原

米原

仲正

仲正 

photo by m bodaiji

――一対一にはなれないけれど、マス対マスの一方の一員になることによって主体性を感じられるということですね。

仲正

菩提寺

(参照映像)
Kraftwerk-Roboter 1978
https://www.youtube.com/watch?v=5DBc5NpyEoo

信國 マスで考えるということになるのでしょうか。

信國

――無私になるということですね。先ほどのM譲のナオさんの話に通じますね。

信國 いい友達になれそうです(笑)。

米原 極めていくとそうなりますよね。

仲正 うんうん。

信國

仲正

信國

信國 「自分とは何か?」というより、「自分は何です」と言いたい時、その「何」が既に社会的に存在しないと、どう言ったところで「何か」になれないわけですよね。

米原

信國 言われる側からすると自己否定の快感があるわけですね。だから本気で否定してくれる相手がいい。

米原

菩提寺

仲正 言葉を単語やフレーズに分解してみると、自分が世界で初めて発した言葉はないんです。分解すると誰かが既に同じようなことを言っている。SM譲の台詞でも、完全に分解するとそうなります。ただし、受ける側からすると、収まりの範囲を示す分布図のようなものがあり、収まりの範囲から微妙にズレているところを感じて、「この人は本気だ」とか感じるのでしょう。それは計算して出る答えではなく、どこで微妙にズレたと思うのか数値化はできないわけですが。
このイベントのために鷲田清一さんの『モードの迷宮』(1989年、中央公論社→ちくま学芸文庫)をきちんと読んでみたのですが、鷲田さんが論じているのは、まさにそういうことです。みんなファッションで微妙にズレたいと思っていて、微妙にズレたつもりになっているけれど、同じような人ばかりで、興覚めする。人は自分独自を求めている。だけど大抵の場合、みんな同じような方向に独自性を求めるので、ズレようとしても結果的に同じところに行ってしまう。

信國

米原

信國

信國

信國

菩提寺

仲正 「モード」と言う時、定義によるけれど、バルトやベンヤミンが「モード」と呼ぶ現象は19歳世紀以降のものです。

信國 大量生産以降ですね。

仲正 そうです。ダンディというものが厳密な意味で成立するのは、19世紀的な現象だと思います。周期があるのだけれど、大量に流行った時に微妙にズレて「これは自分オリジナルだ」と表現できる期間がある程度あると、大勢の流行に抵抗できる。モードが出始めた時期はそれが可能でしたが、今はサイクルが早くなり過ぎていますね。これも鷲田さんの受売りですが、今我々の言う「モード」とは、初夏秋冬というように周期的に入れ替わっているものを指していますが、近代以前の世界では、そういう波のようなものはあったのかも知れませんが、早いサイクルではなかった。これほど早く決まった周期でぐるっと回って来るようなモードは、極めて現代的な現象だと思います。しかも周期がだんだん早くなっているので、先ほどから出ているような話になる。少し前までであれば、多少時間差があり、「そう簡単には真似できないだろう」というものがある程度成立していた。でも今、みんなが同じ方向で情報を集め始めるので、自分だけでやっているつもりでも、人のやっていることがついつい情報として入ってきている。だから知らない間に似てしまう。そういう事態が今起こっているのではないかと思います。だからオリジナリティというものが揺れている。本当に自分で思い付いたものなのか、もはや分からない。オリンピック・ロゴマークの盗作騒ぎにしても、そういうものかも知れませんね。本人ではないから分かりませんが。情報収集している間に、知らず知らずに自分のものとしてしまっている。そのようなことがものすごく高速度で起こっています。

信國 マルコム・マクラーレンも、セント・マーチンズに来た時にはっきりとそう言っていました。僕も身をもって体験してます。彼がヒップホップを発見した時は、サウス・ブロンクスで逆立ちになって頭でクルクル回ったり、レコードこすったりしている、けったいなことをしている子たちがいると聞いて行ってみたんです。それでああいう子たちを見つけて紹介したわけですが、あっという間に広まりました。また、ヴィヴィアン・ウエストウッドがデザイナーとしてパリコレでショーを開いた時、ある種革命を起こすような気持ちで手伝おうと思いました。日本は曖昧な人種ですが、彼女も、マルコムにしても非常にソリッドです。彼らがああいう斬新なことをした時、「『VOGUE』を潰すぞ!」くらいな気持ちで、本当にファッションと闘う意識でやっていました。ですが、穴の開いたセーターなどを出してパリコレでショーをやったものの、次の週の『VOGUE』はそれを表紙にしていたんです。その時にマルコムは負けたと思ったそうです。彼が言うには、ゲームには絶対に敵が必要。では最後に残るファッションの敵とは何かと考えると、メディアしかない。それで『VOGUE』を潰すという気概で挑んだわけです。

菩提寺 シチュアシオニスト的ですね。

信國 そうですね。

米原

信國

菩提寺

米原

(映像鑑賞)
Kris Wu – Deserve ft. Travis Scott (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=pCdWnY4Dn2w&index=2&list=RDN1HAMUAXzbs

米原

信國 

菩提寺

米原

仲正 

米原 トラップにはバトルがないんです。

菩提寺 コンペティションがないということですね。

米原

仲正

信國

仲正

仲正 ――先生、いろいろなものをご覧になりますね。

菩提寺 日本のトラップも観てみますか?

信國太志×米原康正×仲正昌樹×菩提寺伸人(菩提寺光世 司会)|2018.06.20

2018.6.20 投稿|