信國太志×米原康正×仲正昌樹×菩提寺伸人 トークイベント第二弾

投稿日:2018年07月12日

photo by yoko

 

菩提寺 日本のトラップも観てみますか?

 

米原 じゃあ〈JP THE WAVY〉を。

 

仲正 日本のものと黒人アーティストを比べてみると特徴がはっきり出てくると思う。黒人はまだラップっぽい要素を残していると思うんです。

 

信國 聴いていて、トラップはいろいろな要素があるけど、革新的ではないですね。懐かしい感じはあれど。

 

(再び、映像鑑賞)

 

米原 これが日本で一番ヒットした曲で、この子は元ダンサーだったんです。

 

菩提寺 信國さんがパラパラと仰ったように、日本の音楽の踊りは手が主、向こうのビートは脚腰からとよく言われます。

 

仲正 脚を使うとやっぱり動きが激しくなるから、素人は付いて行けなくなりますね。

 

菩提寺 一般的に最近のラップは詰め込み型の音が多いような気がしますが、仰るようにトラップはテンポが遅いことと、音数が比較的少ないのが特徴ですね。反復もしくは繰り返しを続けていると、音楽における時間的要素が少なくなる。ヨーロッパの伝統的音楽やそれにならった形式の音楽にあるような一線型の時間経過や起承転結が希薄になってくるというわけです。

 

米原 だから2分台、3分前半の曲ばかりで長くならないんです。

 

菩提寺 やはりそうですか。構造や雰囲気がわかればいいので短くても構わないという感じ、メロディが変化したり楽器が多かったりすると、そちらに意識が向いてしまう。しかし少なければ、ちょっとした変化を追っていくことによって(ヨーロッパの)ミニマル音楽的になる。日本の古典的な音楽、例えば御神楽、舞楽などは時間の概念があまりなくて、空間に堆積していくような音楽と言われてます。そういうものに近いのではないかという気がします。昔中国から伝来したと言われる雅楽はそれに通奏低音的に笙が奏される。先ほど観た中国のアーティスト クリスウーも、金物の刻んでいる部分の速度はかなり速かったけれど繰り返しだし、軸となるテンポはやはり遅いという傾向がありますね。向こうはまだ歌になっていたけれど、この日本の曲は繰り返しの要素が強い。あとアメリカのものはインド的な音源使ってるのがありましたね。ラガーとかインド音楽とアメリカの初期ミニマル音楽は密接な関係がありました。もちろん各々トラップのアーティストが難しいことを考えた上でやってるわけではないだろうけど。

 

信國 哲学用語でプラトー(抑揚や展開がなく非物語的である様を指す)ってありましたよね。

 

菩提寺 今はYouTube等で視覚的に音が伝達されることが多いので、イメージ的に構造、雰囲気を捉えるような音楽が多いですね。そういうメディアの影響もあってかコード展開したり歌詞が盛り上がったり下がったりしてひと処に落ち着くようなものを求めているのではなくて、流行ものでも視覚的要素が音自体にも強く関係している感じがする。話はかわるけど80年代MTV 時代は物語や歌詞を説明するようなプロモ映像が多かったと記憶しています。M.ジャクソンのスリラーは物語的(時間経過)でしたがビリージーンの音は空間的、ミニマル的でした。

 

米正 今の若い子たちはみんなスマホで観ているから、基本的に長い曲には飽きるという面があるね。

 

菩提寺 アジアの、東洋の古典的音楽にあった感覚みたいなものが、何となく混交しながら世界的に広がっていったのかな。時間芸術とか時間の音楽というよりは、空間的というか同じ時間に留まりながら堆積していく、結果、音の密度を高めるような音楽に、シュトックハウゼンの「瞬間形式」に、大衆音楽も寄って来たのかなと思います。僕はラップあまり好きじゃないのでラップ、ヒップホップのことは詳しくないのですが、こういう1950年代以降現代音楽がテーマの一つにしてきた時間概念を考えたような特殊な音楽は実は昔からあるんですが、その場合、現代音楽にしても、どちらかと言うとマイナーな音楽とか、ひねりの入った音楽を好む人たちや好事家に受け入れられるもので売れ筋の音楽ではなかった。

 

仲正 一貫性がある音楽なら、ダンスをする際の体の動きもそれに合わせて変化させていかないといけない。緊張感を高めたり低めたり。でも、この楽曲だと場面場面ごとに強調点が変わっていて、わりとバラバラだから、素人がここなら自分もできると入っていけると思える。黒人のものはラップに近くて、普通の日本人だと入っていけるかな、という感じがします。先ほどの中国の曲に比べると、この日本のものはテンポの変化の感覚が短くて動きが小刻み。日本人はこの小刻みの部分に入りやすそうな感じがします。

 

菩提寺 ラップは、技術的に稚拙だった頃から反復、繰り返しをしていました。当時の器材の関係からも。初期のラップは、ある種テクノ、もっと言えばテクノ以前の一部のジャーマン・ロックに近いような感じがあった。ジャーマン・ロックから、テクニックがないと言われるパンクが影響を受けたのは今はとなっては定説です。それからDTM(デスク・トップ・ミュージック)の時代からDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)の時代、エフェクトも含め同期させて簡単にコントロールできる音楽ソフトが出て来ます。昔はサンプラーもなく、シーケンスを作るのもかなりの技術か演奏力が必要だった。もちろん音源も既製品はなく、自分で作るしかなかった。テープループをいくつも作って操作し、エフェクトもそれに合わせてリアルタイムで操作してかつミキシングもかなり細かくやらないとできないとか、同時にいろいろなものが安易にはきれいに同期できなかった。その結果、自ずとこの手の音楽は「難しい音楽」になって、一般ウケしなかった。それが今、一般的な音楽でこういうことになっているというところが僕からすると面白い。でもたとえ音楽の形式上は近くても信國さんが仰ったように僕も一部を除いてトラップは面白いとは感じなかった、そこが前回の「柔らかいニューウェイヴ」の話と繋がるところかと思います。

 

米原 世界中の若い層がこれにハマってるの。ところが日本だけはトラップから取り残されているんです。

 

菩提寺 個人的にはアジアの古典音楽に近い感じがしてて、JP THE WAVYいいと思うんですけどね。

 

仲正 何を求めて参加するかによると思うけれど、魅力があるとすれば、参加しやすいことでしょうね。

 

米原 サビのところでみんなで歌うのが、わりと世界の流れになっています。

 

菩提寺 日本の伝統音楽はヘテロフォニーが特徴です。西洋のクラシック音楽では、例えば弦楽四重奏や指揮者がいるオケでは「せえーの」という感じで合奏しますが、日本のは同じメロディを各パートが奏で、そこに合わせて各々がちょっとズラして先に進んだり、もどったり、遅れたりしながら、ちょっと装飾音いれたりして、また同じフレーズに…というように、大体似たようなフレーズを揺れながら観念的な時間のなか進行していく。そういう意味では参加しやすいと言えばしやすい。高橋悠治さんの「パーセル最後の曲集」(74年 コロムビア)というレコードが、一人でオーバーダブして超絶技巧でこれをやっているのではないかと思っています。

 

(三度、映像鑑賞。黒人のトラップ)

 

©JUN

 

米原 〈Bali Baby〉というアトランタの女の子です。

 

仲正 やっぱりリズムが早いですね。

 

米原 黒人は音を2分割とか4分割して動くんです。だから早い。コンサートでも黒人のオーディエンスはみんな飛び跳ねてますよね。

 

仲正 これだと簡単には参加できないですね。ある程度黒人的な文化を共有していると入っていけるのかもしれないけど、このテンポは一般的な日本人は入って行きづらいと思う。

 

米原 トラップの特徴は、基本的に盛り上がりがない。サビのフレーズしかないんです。

 

仲正 「あ、このパターンか」と思った瞬間に変わっている感じで、移り変わりが早い。手の運動で言うと、彼女は結構動かしてますね。

 

米原 トラップは、顔の近くで手を動かすことが多いです。この曲は「Enemies」といって、仲が良かった女の子と喧嘩して、その子のトラップを使って「あなたは友達のふりしているけど敵よ」と歌ってます。冒頭で、女の子の写真を弾丸で打ち抜いているシーンがあるけど、それが敵の女の子。でもリズムとしては、「喧嘩しているぞ」という響きは感じない。

 

――ラップは、敵対関係、言い争いから始まるけれど、トラップはそういう要素はない。というより、メディアの発展によって、みんなが音楽や画像をミックスしたり同期させることがやりやすくなった面が見て取れますね。

 

米原 トラップでは、全員、最初にYouTubeで人気者になってからメジャーデビューします。それは全世界的流れとしてありますね。

 

菩提寺 これも米原さんに教えてもらった映画ですが『ワイルド・スタイル』(82年、監督:チャーリー・エーハーン)がヒップホップの黎明期を描いていますね。70年代~80年代初めにかけて、〈ブロンディ〉のデボラ・ハリーやクリス・ステイン、〈トーキング・ヘッズ〉のメンバーなどと初期ヒップホップ関係者の接触があったようです。「TVパーティー」(1978~82)というアメリカのケーブルテレビの番組があって、グレン・オブライエンの司会で、当時のニューヨークの音楽シーン中心に変な人達がジャンルを超えて大勢出演しています。バスキア、W.ステディング、D.ボウイ、イギーポップ、クリムゾンのR.フリップ、P−ファンクのG.クリントン、D.ヴァン ティーゲム、メイプルソープ、ノーウェイヴ関係でDNA、コントーションズとか。その中にワイルドスタイルの関係者もいたようです。また、ヒップホップの草分け的存在のDJアフリカ・バンバータはギャングのボスで結構な金持ちなんで当時、とても高価な楽器や大変高額な初期のサンプラー等を使っていました。でもクラフトワークのように緻密ではなく、ざらついたヒップホップっぽい音ですが。クラフトワークの「トランスヨーロッパエクスプレス」「コンピュータ・ワールド」から引用し混ぜて使ってあって、かなり影響が見られる。これらの場合も先ほどの例と同様に、一般に言われているより初期の段階からいろいろな音楽、ジャンルが混交している事例といえると思います。

photo by s koshino

 

米原 前回も話したけど、ヒップホップの時代からはもうすべてサンプリング。既にある音の組み合わせで、自分たちの音を作るわけじゃない。リズムボックスの中に入っているビートをいかに自分のスピードに合わせるかとか、いかに面白い音をサンプリングしてきてそこに載せるか、というところから始まっているよね。

 

菩提寺 ファッションも元々、サンプリング、引用だったというお話ですよね。

 

信國 僕が受けたイギリスの教育では、デザインがどうこうよりも、リサーチを重要視していました。プレゼンする時、まずリサーチを見せないと、「あなたは天才か、気違いか、どちらかですか?」と訊かれます。天才であれば神がかっていて、何もないところがアイディアが降りてくるかもしれないけど、それは滅多にないよね、ということです。つまりリサーチありきなんです。

 

米原 DJもサンプリングのネタをいかに持っているかによる。

 

――編集作業が重要になるわけですよね。

 

信國太志×米原康正×仲正昌樹×菩提寺伸人(菩提寺光世 司会)|2018.07.12

2018.7.12 投稿|