根本敬×仲正昌樹×菩提寺伸人トークイベント第二弾 抜粋

投稿日:2019年04月15日

一部変更、訂正を加え増刷二版目の書店販売を開始いたしました。現在二版目は阿佐ヶ谷ネオ書房で現物在庫があることが確認されています。(2021/7/7更新)

 

※少量生産本でもあり現在流通が不安定な状況で、大変ご迷惑をおかけし申し訳ありません。

5月中旬発売、早々ご好評頂き、もう既に出版元の在庫も数える程となりました。ありがとうございます。今現在、重版の予定は決まっていませんので、ご興味のある方は下記書店などでお早めにご購入ください。(2021/5/22更新)

現在新宿のブックユニオン、くまざわ書店武蔵小金井北口店、紀伊国屋書店新宿本店、新宿の模索舎、ジュンク堂書店池袋本店、ブックファースト新宿店、神保町の小宮山書店に現物在庫があることが確認されています。 (2021/5/21 更新)

書籍『東京80年代から考えるサブカル』(図書新聞社)が刊行されます。

5月13日〜14日に神保町の小宮山書店、新宿の紀伊國屋書店ブックファーストブックユニオン(ディスクユニオン)等で販売されます。

 

cameraworks by Takewaki

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仲正:さっきも言ったように、何等かの形で支持している人、恐らく熱狂的に支持している人が一定数いないとヘタうまとも言われないと思う。たんに素人の絵っていうか、平凡な絵で終わってしまって。ヘタうまって呼ばれてるのは、なんか逸脱してるんだけど、特定の方向に想像力を刺激できるものでしょう。必ずしも、美しくないキャラクターに向かって。根本さんの場合、ある意味、人間の身体の基層にあることはみんな実は分かっているけれど、それが自分の中にもあると思うとあまりに気持ち悪いので、見たくないなって思う要素が前面に出てきているので、わかりやすいんだけど、他のヘタうまの人も、たぶんいろんな仕方で逸脱してるんだと思う。当然、その逸脱の仕方が、漫画家ごとに、その人のファンごとに違っているでしょう。ファンにとっては、普通の人にとっては見たくないだろうけど、だからこそ自分は見たいというものを見せてくれている。そういうファン・サービス的なところがあるから、成立してるんだと思います。ただここで、さっきの都築さんの議論を肯定するかのような逆説的なことになりますが、やはり、ベタにサブカルとしてのレッテルを貼らないと、こういうジャンル成立しないと思うんですよ。

司会:ベタにサブカル?

仲正:要するに、これは典型的に美しいものとは違うんだって、カウンターだっていうレッテル貼りして、分かりやすく表示することです。そういうレッテルのおかげでへそ曲がりが注目する。典型的に美しいものに注目する人が圧倒的に多いということを改めて印象付けることで、汚いものが抑圧されていることが際立つ。

司会:そうかも知れません。

仲正:近代以前の絵画でも、猥雑なもんだとか、気持ち悪いような絵とかあったでしょ。しかし、正統なきれいな描き方が確立されたことによって、正常でないものがいったん抑圧されたんだけれど、美しさの基準が固定してくると、意識下に抑圧されていたものがもう一回復活してくる。だから、漫画の世界は、むしろかなりベタに、美形のファンタジーの世界が出来上がっていて、それで漫画のマーケットが成立している。漫画見たい人のほとんどはそっち行くわけよね。絵画のように明確な様式はないけど、マーケットの動向で売れそうな傾向の絵が何となく決まっていて、それからはみ出さないで、それぞれの雑誌のイメージを守っていこうとする力が強く働いている。ファンの気分に左右される傾向と、描き方の画一化は、高級芸術化している絵画の比ではないでしょう。だから、それじゃつまらない、という反発も出てくる。

菩提寺:それは、正常でないものが抑圧されるかどうかは別にして、音楽でも、一部を除くハリウッド映画とかでも同じじゃないですか。だいたいみんな予想調和か、前もって善を措定しておいて勧善懲悪的なストーリーか、ピカレスクものになり易い。

仲正:そりゃそうですよ。ハリウッド映画はそういうものとして成り立っている。つまり、菩提寺さんが見たくない、おもしろくないっていってるようなやつがメジャーな地位を独占し続ける。普通の人が見たいものに群がってマーケットの傾向を持続させるほど、菩提寺さんみたいな人にとっては、どうして自分が見たいものを作ってくれないんだって、反発がひろがってくんですよね。抑圧されていると感じている人の間で、抵抗がだんだん大きくなっていくわけ。メインストリームがあるからこそですよ。メインストリームがなかったらね、それほど「逸脱したもの」に拘らないかもしれない。

司会:だから存続していく。

仲正:そういう面って必ずある。だから「サブカル」というレッテルは、双方にとって意味があるんです。

司会:増えないけれども存続していく話ですね。

仲正:典型ができるとほとんどの人は必ずそっちに行くんですよ。そっちの方が日常的に心地いいから。世の中の人は、“平均的にいいもの”をみたいわけね。すると、それはつまらん、って叫ぶ人が出てくるわけ。そういう人は、「サブ」、つまり。亜流とか「下」扱いして馬鹿にするな、と反発する――「サブsub」の元の意味は、「下に」ですね。しかしメジャーがあるからこそ、「サブ」のジャンルがはっきりしてきて、それなりに盛り上がるんですよ。それで、存続できちゃうわけよ。その線引きがないと、今「ヘタうま」って言われてるジャンル成立しにくいと思う。人間って、“みんなが見たいもの”があるからこそ、見たくない領域、見せてはいけない領域ができて、そこに強く惹かれる人たちが出てくる。

2019.4.15 投稿|