山口千尋さんから連絡があった。先日お預けしたPierre Corthayの件だった。
Corthayの靴のかかとを若干小さくする調整をパリでお願いした時、私はシューツリーを持参しなかった。その為靴と寸分の隙なく作られたシューツリーの出し入れが難しくなっていた。靴に収めるにはかなりの力を要するが、シューキーパーとしての機能としては全く非の打ち所がない。機能を損なわず、ある程度スムーズに使用できるようにしたい。靴ではなくシューツリーの調整が出来る職人はラストメーカー以外にないだろう。
そこでギルド オブ クラフツにお願いした仕事だった。
山口千尋さんが目の前で確認しながら少しづつ紙やすりをかけて下さった。
Stefano Bemerもよく向かい合いながら修理や調整をしてくれた。靴だけでなく私が蚤の市で見つけたすすけたHERMESのアンティークバッグなども。
彼は私の持ち物に興味津々でいつも念入りに観察した。
「この金具を作れる職人、今はほぼいないだろう」「この技術とハンドルのバランスは実に見事だ」
時を隔てながらも分断されない一連の仕事の流れの中に私がいた。バッグは誰かの依頼によって誰かが作り、何らかの事情で市に流れ、私が見つけStefano Bemerの手で色あせ傷ついたバッグが甦った。
Art is man’s expression of his joy in labour. – William Morris
労働の中に現れる喜び、それが芸術だ。
作り手の喜びが受け手の喜びとなる。あの時そうであったように、今も、そしてこれからも。疎外されない彼と私が現実の一連の物語の中にあった。
News from Nowhere、これから先も彼は私に知らせるだろう。アウラを目印に。
それは私が見つけるミメーシスだろうか?
このシューツリーのように。
菩提寺光世
2012.10.02